こんな話を聞いたことがある。場所はイギリス、地元密着型の小さな新進音楽事務所。そこで新人発掘を担当するA&Rのもとには、日々、デビューを夢見る若いアーティストから膨大なデモテープが持ち込まれるのだそうだ。パブ仲間の友人たちもマネージメント料で一儲けしようと新人を持ち込んでくる。中には有望株もいるから侮れないんだとか。この日も彼らのひとりが街のライブハウスで見つけた新人のCD-Rを持ってきた。「Hot One! Hot One!」と叫びながら、机の上に山積みになったCD-Rをガシャガシャーッと崩し、「まずはコイツを聞いてくれ!」と熱くPR。そんなとき、いつも彼らは隣のデリで買ったピザとコーラを一緒に持ち込むのだという。 ピザとコーラとフレッシュな音楽。こんな気軽な取り合わせからも、シーンに羽ばたくアーティストは次々と生まれてくるのだ。 今回リリースされるコンピレーション・アルバム『DCT records"PIZZA"』には、DCT recordsが発掘し、発信する9組のアーティスト(12曲)が収められている。彼らはすべてDCT recordsが開催している「DCTgarden "THE LIVE!!!"」の出演経験者。「DCTgarden」とは、音楽、映画、ファッション、アート、食などに関するさまざまなアーティストを紹介するポップ・カルチャーの発信基地。何の制約にも縛られず、若い才能がスクスク芽生えるこの庭で、現段階でいちばん大きな期待を寄せられているのがこの9組だ。彼らのスタイルはさまざまだ。アコースティック・ギターの音色を愛し、シンプルであることの美しさと笑顔の大切さを伝える女性シンガー・ソングライター「LOVE」、ユーモラスなラップを聞かせるTakeshiとR&B指数の高い歌声を持つAmonからなる2人組「lucKLANG」、クリエイター集団「風の人」の最若手で、オーガニックなメロディラップを繰り出す6人組バンド「underslowjams」などなど、ここには未来の飛翔が期待される逸材たちが結集している。彼らに共通するのは、複数の音楽ジャンルをミックスした音を鳴らしていること。なのに、イイカンジに力が抜けていて、かっこつけずに音を編んでいる。飾らない自然体な音。生活に密着した音。カジュアルに楽しめる音。DCT recordsからのカジュアルな音のデリバリー。ピザを食べる感覚で、このコンピを気軽に耳にしてみて欲しい。好きなトッピングが乗ったオイシイ一枚を必ず見つけられるはずだ。
猪又 孝(DO THE MONKEY)